サイモン・シン「暗号解読(上)」「下」。暗号については少しは興味があるが、頭が難しい話に付いていかないため、これまで何冊か挫折した記憶がある。それを思い出して、この本も一度は手にするのをためらったが、出張の移動中の暇つぶしに、と手を出した。

この作者はなかなか力があり、暗号解読にからむ様々なエピソードを巧みに配置してあるため、暗号の技術的なところが全く分からなくても面白くてスイスイ読めてしまう。それに加え、技術の部分も噛み砕いたわかりやすい説明なので、なんとなく分かったような気になって得した気分になる。正直にいうと、最後の量子暗号は全くちんぷんかんぷんだが、公開鍵暗号のあたりが「分かった気になれた」だけでも十分だ。

さて、いつものように文庫本カバーの著者紹介のところを見たら、なんと「フェルマーの最終定理」 の作者でもあったのだった。こちらはどこかのブログで褒められていたのを見て、読んでみようかと思いつつ、題材が題材だけにためらっていた。「どうせ分かんないんじゃないのかな」と。しかし、この作者であれば大丈夫だろうと試してみて、期待は裏切られなかった。

暗号よりもっと基礎的な話であるが、頭の中が少し風通しの良くなるような読後感というか。高尚なことを紹介してもらったなあ、という感じ。本書では数論の応用としての暗号に度々言及があり、著者が続いて暗号の分野に進むのは自然な流れだったようだ。(読者としては、どちらを先に読んでも問題ない。)

そういえば、暗号からみでは昔、「クリプトノミコン(1)〜(4)」というのも読んだことがあるが、もう一度読んでみるのも良いかもしれない。