老眼palm

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乃南アサ「いつか陽のあたる場所で」

それぞれ暗い過去を持つ、二人の女性を主人公にした連作シリーズの第1作だそうで、上野のブックエキスプレスで平積みになってたのを買って読んだ。うまい小説家だと思う。四作目の「すてる神あれば」で、芭子(はこ)が家族にさよならを言うあたりから、彼女が綾香の職場の様子を見に行くあたりは、なんだかウルッと来てしまった。

別シリーズ(といっても2冊だけかな)でおなじみの高木聖大巡査も登場し、文庫本の帯にもガンガン出てくる。こっちも、ああ、あいつが出てくる下町ものか、と思って買うわけで、売り方もうまいということになるかな。

舞台は谷中。一作目で、登場人物の大石老人があたりを散策する人に対して、覗き見趣味だと憤慨するシーンがある。自分も谷中のあたりは時々うろうろするが、なかなかうまい具合に写真が撮れない。自分にとっては、いい風情の散歩コースだけど、そこに住んでる人には生活の場なわけで、雰囲気いいからといってパチパチ写真撮ってるのってどうよ、と思う気持ちがなくはなかったから、ということかも。

読んでて、あの辺だなと分かる部分もあって、なんだかうれしく思ったし、この本の舞台を巡るつもりで、おとなしく歩いてみる分にはバチは当たらないだろう、と勝手に解釈しているが。

佐藤多佳子「一瞬の風になれ」他

春野台高校陸上部を舞台に、幼なじみで天才スプリンターの一ノ瀬連と一緒に頑張る主人公、神谷新二を描いた青春小説だ。主人公の一人称の語りでつづられる文章にはリズムがあり、登場人物のキャラクターも魅力的だ。ステレオタイプな描写もあるのかもしれないが、いろいろなエピソードが楽しい。

ヒネクレた年寄りの自分も、青春っていいなあ、と素直に思える熱い作品だ。久々にうるうるしながら、一気に三冊読んだ。

これを読むきっかけは、あるブログの紹介記事だ。その記事では、彼らのその後が少し気になる、という感想があったけど、自分は、一番良いところで終わらせてきちんと完結したな、という印象だった。

青春小説といえば、少し毛色はちがうが、瀬尾まいこ「図書館の神様」も良い。これはだいぶ前に買って、もう2度ほど読んでいるが、感想を書きそびれていた。もともと体育会系の主人公の高校講師が、なぜか文芸部の顧問をさせられる話。顧問をしているうちに、いろんな文学作品に興味を持ったり、自分がおもしろいと思った小説に授業の材料を差し替えたり、という心境の変化の部分がおもしろいと思った。

それにしても、普段この手のは読まないのになぜ上野のTSUTAYAで手に取ったのだろう、と疑問だったが、どうもタイトルに「図書館」が入っていたからという単純な理由のようだ。(図書館モノは少し興味があって、これまでも数冊読んでいる。)沈んでいた気分が少し救われたので、これは買って正解だった。

誉田哲也「ソウルケイジ」他

どこかのブログで、「ジウ(1)(2)(3)」が面白いというので、読んでみた。確かに主人公の門倉美咲はいい感じで、面白く読めた。適度に浪花節的なところもあって良いのだが、自分の本読みのレベルが低いせいか、なんだか細かいところがよく分からないままストーリーだけを追っかけてしまった感じ。そのくせもう一度読んで分からないところを補おうという気には、なかなかなれなかった。

そしたら、今度は出張の移動中に「ストロベリーナイト」を見つけたので、読んでみた。姫川玲子シリーズの最初の奴なので、登場人物の紹介が少し煩わしくて、キャラクターもなんだかマンガやアニメのように極端な感じがイマイチ乗れなかった。だけど、浪花節的に泣かせるところがあるのは気にはなっていた。

で、せっかくのシリーズだからってことで読んでみたのが、「ソウルケイジ」。シリーズ2冊目でだいぶ慣れたのか、これはそんなに違和感なく楽しく読むことができた。なんとなくイマイチ感を抱きながらも、5冊も読んだってのは、やっぱりいずれも主人公のキャラクターが気になるからなのだろう。久々に次も読みたいな、と思う作者に出会えた感じだ。

それにしても、堂場瞬一、今野敏、佐々木譲、乃南アサ、となんだか警察モノばかり読んでる気がする。(感想は書かないけど横山秀夫とかもたまに読むし。)まあ、背景が分かりやすくて楽に読めるってのが大きいんだろう。てゆうか、同じジャンルなのに新しい作者に手を出すのに、こんなに手こずってるというのは、歳取った証拠だよなぁと思う。

堂場瞬一「邂逅」

先週の水曜日、飲みに行った帰りに例によって秋葉原のBOOK EXPRESSで見つけた。

これでシリーズ3作目。登場人物などの設定も紹介する必要が少なくなっていて、普通に話が進んで、普通に楽しめる。明神愛美も普通に仕事に馴染んできているし、主人公の高城賢吾も普通に酔っ払いだ。

今回は定年間近のベテラン刑事、法月大智が、心臓病の持病を抱えながら、なぜそんなに無理して働くのかってところがポイントといえばポイントだ。今回の事件に関係して、昔、何かがあったんじゃないか、とか思って読んでいたが、結局、肩たたきに対して、まだ働けるというアピールだった。

自分だったら、生活の不安がなければ、すぐに仕事なんて辞めると思うんだがなあ。

普通に面白いのは構わないのだが、やっぱり何だか物足りない。「やはりコーヒーに重大な秘密が?」とは、主人公の上司、阿比留室長の飲むコーヒーを巡る描写の一部だが、何をアホなことを書いているのか、と笑ってしまった。

このシリーズは、この先も惰性で読むとは思うが、早いうちに本来のテーマに踏み込んでほしい。

堂場瞬一「いつか白球は海へ」ほか

例によって一杯やった帰りに秋葉原駅のブックエクスプレスで購入。やっぱ堂場瞬一の野球モノは面白れえ!と思いながら読み進めた。途中、五百円札が出てくるあたりで、ん?と思いながら読んでいたら、どうも東京オリンピックの少し後くらいで、ドラフト制度が始まる前という時代設定。残念ながらそれにどういう意味があるのかは読み取れなかった。

強いていうなら、主人公がプロ入りを断る言い訳としてアメリカ武者修行を持ち出すために、日本人初の大リーガー村上が活躍している時代が必要だった、ということかも。今の時代設定にすると、大リーグがはるか遠くの手の届かない存在ではなくなってきているので、米国武者修行を荒唐無稽な条件とできないだろう。また野茂以前の他の時期だと、アメリカで野球という発想を出しにくそうだ。

それにしても、最後の結末はあんまり頂けないし、プラッシーの差し入れってのは時代設定がそうだとしてもやりすぎじゃないかなあ。とは言いつつ、夜更かしして最後まで読みきってしまったので、面白い話ではある。

そういえば、少し前に「孤独のグルメ」というのも読んでいた。ふむふむ、あるあるこんな感じ、と面白く読めたのは、巷の評判どおり。実は買ってからマンガだったことに気づいたのだが、文庫本サイズに縮小されたマンガは文字が小さく、老眼には辛かった。

山田宗樹「黒い春」


黒い胞子が肺で爆発的に増殖し、発症から30分以内に確実に死に至るという黒手病についての話。新型インフルエンザでパンデミックだなんだと騒がしいのもあって、図書館で見つけて読んでみた。

黒手病そのものについては、半ばくらいで正体が解明される。謎解きの部分はそれで一段落で、この後どうするんだろう、と思って読み進めたが、後半のドラマが実に良かった。主人公のうちの一人の奥さんに、感染の疑いがかかり、病と戦っていくのだ。

こういう泣ける話は弱いのだが、最近、仕事が不調で、上司に怒られ、部下を理不尽に責め、暗い顔で仕事に向かう、笑顔のない毎日には、これくらい感情を揺さぶってくれるものでないと効かない。

少し前の刊行なので、厚労省でなくて厚生省だけど、途中、厚生省の無策を責める描写がある。今回の新型インフルエンザの件では、「厚労省(厚労相)は騒ぎすぎ」という批判があり、この是非は良く分からないのだが、お役所は「遅い」とか「何もしない」とかって批判されるのが常だったのに、やっぱ舛添さんは一味違うなあ、とか思うのだった。

タイミングを逸したり、特に感想を書くまでも至らなかったなどでブログの記事にはしてなかったが、他に最近読んだのは、保科昌彦「相続人」、久坂部羊「廃用身」、首藤瓜於「指し手の顔」、森村誠一「名誉の条件」てなあたり。

堂場瞬一「相剋」

友人から、反逆者の月(3)が出てるぞ、とメールがあったので、会社の帰りに近くの本屋に寄ったが発見できず。代わりにこれを見つけて買った。

「警視庁失踪課・高城賢吾」シリーズの第2弾だ。いそいそと読み始め、ふと、そういえば第1弾ってどんな話だったかな、と考えるも、思い出せない。ああ、歳はとりたくない。

ストーリーは思い出せないものの、失踪課のメンバー構成は覚えていた。第2弾はそのうちの一人、醍醐刑事とペアを組んで進む。失踪課は、室長以下それぞれ過去になんかしらのいわくがある設定で、この先シリーズを進めながら、すこしずつクローズアップしていくのだろう。

今回のストーリーは、後半ドタバタっと片付けたって感じがして、いまいちに感じた。主人公の高城も、タバコ吸いまくりの頭痛薬飲みまくりで、こちらもいまいちノリ切れない。やっぱり明神愛美チャンをもう少し活躍させてくれなきゃ。

小林紀晴「写真学生」

デジカメ買って写真撮ったりするようになって、図書館に本を借りに行っても、写真関係の書棚の前で立ち止まることが多くなった。

たいがい、デジカメの撮り方みたいなハウツーものを借りたりして、斜め読みして、ふーん、なるほどね、で終わりだが、こういう小説もこの分類なんだ、と思って借りて読んだ。

長野から東京に出てきて、写真学校に通う「僕」を主人公にした自伝的青春小説だ。途中、劣等感や不安、投げやりな気分にかられ、学校にいかない日が増える、という話がある。ああ、そうだ、自分もしばらく大学にいかないことがあった。出来のいい連中に囲まれて、自分が何をしていいのか分からなくなって(というより他にやりたいことがあったけど踏ん切りがつかず)、うろうろしていた時期だ。

結局のところ、せっかく入った大学なんだから、卒業しないともったいないだろう、情報処理の時間に習ったプログラミング方面だったら少しできるかもしれないし、と思って大学だけは卒業しようと思った。大学辞めて他の世界に飛び込む勇気も金もなかった。そんな打算的な考えで大学に戻ったが、卒論でお世話になった研究室で、いろんな人に出会えて、おかげで今の生活がある。というようなことを考えながら読んでいたら、止まらなくなって久々に夜更かしして読んでしまったのだった。

この本の主人公には、一貫して「写真」がある。最初はへたくそだが、徐々に写真を撮ることに自分の言葉や思いを重ねていけるようになっていくところが、青春小説だなあ、と感じた。

霧村悠康「脳内出血」「ロザリアの裁き」「細菌No.731」

霧村悠康の本を立て続けに3冊読んだ。最初に読んだ「脳内出血」は今ひとつ乗れなかったのだが、現役の医師が描く医療系のサスペンスということには興味を引かれたので、あと2冊読んでみた。

「ロザリアの裁き」も途中までは、何だかなあと思って読んでいたが、途中の事故のあたりから話がおもしろくなった。「細菌No.731」は話の展開が、昔の推理小説を読んでいるような感じで、そこが良かった。この3冊の中では「細菌〜」が一番良かったが、登場人物の名前が読みにくいことと、医療系の話という以外にはあまり共通するものは感じなかった。

もっと読むかどうかは微妙なところ。新幹線とか飛行機に乗る前に、何か読むものを、と考えたときの選択肢としては残るだろう。

「脳内〜」と「細菌〜」のカバーのサイトウユウスケ氏によるイラストは良いと思う。

現役医師の作家といえば、海堂尊とか久坂部羊を思い出す。それぞれあふれる才能を感じるし、忙しいのによく小説なんて書けるなあ、と感心してしまう。二日酔いで貴重な休日をだらだら過ごしてしまった自分とはえらい違いだ。

堂場瞬一「蝕罪」

金曜日、大阪出張の帰りに新大阪のホームのキヨスクで見つけた。「刑事・鳴沢了」シリーズに代わる文庫本書き下ろしシリーズの開始で、文庫ってところがサイズといい価格といい、自分にはうれしい限りだ。

早速車中で読み始め、大変楽しく読んだ。終盤の設定に少し無理があるような気もしたが、話の展開は終盤でも失速感がなくて充実している。おそらくこのシリーズが続けば、主人公の娘のエピソードにいつかはたどり着くのだろう。見たいような見たくないような。それがこのシリーズの肝だから仕方ないかな。

主人公の高城警部、上司の阿比留室長、相棒の明神刑事あたりまでは良いのだが、吹き溜まりという設定の警視庁失踪課の同僚をはじめとして、脇役陣はなんだか漫画っぽい極端なキャラクタが多いのは気になった。余り気張らず分かりやすく楽しめるということでは良いのかな。解説にある通り、明神愛美は相当良いので、次も楽しみだ。

思わずニヤリとしたのは終盤のこの台詞。

「いいんだ。俺の靴は使い捨てみたいなものだから」

「高城賢吾は靴には無頓着」ということが鳴沢了との違いなのだろうが、この作者の靴へのこだわりは相当のようだ。